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いつも心にデカダンを。

【映画】極私的オールタイムベスト10‘‘+10’’

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(『白痴』より)

惜しくも(?)極私的オールタイムベスト10から外れたものの、やはり何か書き留めずにはいられない10本。本編(ベスト10)は過去記事から。

kojimat.hatenablog.com

今回の10本はこちら:

1.『ぼくの伯父さん』(1958・ フランス/イタリア)

ぼくの伯父さん [DVD]

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監督・制作・脚本・主演:ジャック・タチ 音楽:アラン・ロマン/フランク・バルチェッリーニ

タチみずから’’ユロ伯父さん’’に扮し、観る人の心をくすぐりまくるフレンチ・コメディ。わずかな台詞と洒脱なテーマがいざなう冒険は大胆にして無垢、かたくなな人間の心もいつの間にか変えてしまう。この’’ユロ伯父さん’’は好評を博し、本作以後もタチ作品に登場した。同時に独創的な音響は映像と音の関係を改めて問う実験に満ち、ヌーヴェル・ヴァーグの映画人たちにも絶賛された。

人間への愛あるからかいに満ちた毎シーンに、冒頭から笑いが止まらない。本当に大好き。

2.『ラ・ジュテ』(1962・フランス)

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監督・脚本:クリス・マルケル 撮影:クリス・マルケル/ジャン・チアボー 

上映時間29分、映画というよりはスチールの連続なのでこのリストに適当か迷ったが、規格を超えて優れた点があるし、何より自分の思い入れが強いので入れた。昨今では『12モンキース』の元ネタとして認知度が高い本作は、SFでありながら特殊効果はほとんど使わずに壮大な時間と空間のスケールを表現した名作である。また限られた映像で人物の心を繊細に表現し、鑑賞後は毎回切ない夢を見たような気分になる。

クリス・マルケルは本来多作の監督だったにもかかわらず、日本で観られる作品が少なすぎる。非常に残念。

ラ・ジュテ -HDニューマスター版- [DVD]

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3.『長江哀歌』(2006・中国) 

長江哀歌 (ちょうこうエレジー) [DVD]

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監督・脚本:ジャ・ジャンクー 撮影:ユー・リクウァイ  出演:チャオ・タオ ハン・サンミン 他

ダム造成で水没する街を舞台に二組の男女を描いた作品。激しい感情表現はみられず、ましてドラマティックな展開もないが、代わりに壊れゆく建物や街そのもの、そしてゆるやかに流れる川が人の想いを切々と語る。どのシーンも素晴らしい映像で、撮影を担当したユー・リクウァイへの監督の信頼は非常に篤いようだ(その後の作品でも一緒に仕事をしている)。一方で折々の挿話にはユーモアがあり、ハッとさせられるようなファンタスティックなショットもある。一見侘しい世界に小さな星々が隠れているような、優しくて強い作品。

4.『サイレンス』(1998・イラン/フランス/タジキスタン)

サイレンス(字) [VHS]

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監督:モフセン・マフマルバフ 出演:タハミネー・ノルマトワ、ナデレー・アブデラーイェワ 他

盲目の少年が「音」を通して内的世界を見出す物語。家賃の催促で戸が叩かれる音をベートーヴェンの交響曲(’’このようにして運命は扉をたたく’’)に重ね、乱暴なノック音=過酷な運命(家を追い出される)を自分の見つけた「音」で理解しようとする少年・コルシッドの冒険記である。

劇中の音すべてがいきいきと奏でられ、生活音さえも音楽になるコルシッドの感覚を色彩豊かな映像で堪能できる。また、コルシッドを何かと気にかける少女・ナデレーが纏うタジキスタンの衣装や舞踊も美しい。 マフマルバフの他作品はDVDでも観られるのに、なぜかこの作品は未だVHSのまま。ぜひリマスターしてほしいものだ。

5.『春夏秋冬そして春』(2003・韓国/ドイツ)

春夏秋冬そして春 [DVD]

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監督・脚本:キム・キドク 撮影:ペク・ドンヒョン 出演:オ・ヨンス 他

人里離れた寺にみる人の営み…と言ってもそこはキドクなので、四季を通して人間の「業」が苛烈に描かれている。丹念に撮られた自然の存在感も大きく、その美しさが世界の残酷さであり優しさでもあることを観る者に気づかせる狙いだろう。この作品において自然は『空即是色、色即是空』という仏教の教えを物言わずに告げる影の主役なのだ。火と水の映画。

6.『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996・アメリカ) 

フロム・ダスク・ティル・ドーン(初回生産限定スペシャル・パッケージ) [Blu-ray]

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監督:ロバート・ロドリゲス 脚本:クエンティン・タランティーノ 出演:ジョージ・クルーニ―、ハーヴェイ・カイテル、ジュリエット・ルイス 他

『グラインド・ハウス』『シン・シティ』『マチェーテ』、ロドリゲス=タランティーノの共同作業はどれも大好きだけど、やはり一番はこの作品。ナンセンス飛び散るホラー・アクションで、ここで炸裂した「正しいB級感」がその後もいかんなく発揮されているのは周知の通り。すっかり映画とは疎遠になってしまったジュリエット・ルイスの姿を見られるのも嬉しいし、サントラも秀逸。

7.『デジレ』(1954・アメリカ)

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監督:ヘンリー・コスター 出演:ジーン・シモンズ、マーロン・ブランド、マイケル・レニー、マール・オベロン

前記事の『ジェーン・エア』も含め、自分にいくばくかの乙女要素があるとすれば、それは大部分が50年代のハリウッド映画によって醸成されたものなのだろう。『デジレ』はナポレオンの元カノにしてのちにスウェーデン王妃となった女性のメロドラマだが、なかなかどうして変な甘ったるさはない。デジレ、ナポレオン、デジレの夫となるベルナドット卿(スウェーデン王)の三角関係も近世ヨーロッパの歴史を描く枠組みとして大いに機能している。豪華キャストだし隠れた名作だと思うのだが、今日に至るまでVHSもDVDも販売されていない。権利の問題だろうか?マーロン・ブランド=ナポレオンのハマりっぷりは尋常じゃないので、後世に残してほしい。

8.『ヒズ・ガール・フライデー』(1940・アメリカ)

DVD>ヒズ・ガール・フライデー (<DVD>)

DVD>ヒズ・ガール・フライデー ()

  

監督:ハワード・ホークス 出演:ケーリー・グラント、ロザリンド・ラッセル、ラルフ・ベラミー

スクリューボール・コメディの決定版。同監督のコメディでは『赤ちゃん教育』も人気だと思うが、ここでは元夫婦を演じるケーリー・グラント&ロザリンド・ラッセルの強烈マシンガン・トークに軍配を上げたい(※)。また、好きなポイントとしてロバート・カロックの衣装も挙げられる(冒頭のラッセルの帽子よ!)。コメディながら社会派の視点も持ち描写も骨太だが、それも結局茶化す・徹底して壊す、の縦横無尽な暴れぶり。抱腹絶倒の映画は?と聞かれて一番に答えるのはこれからもこの作品だろう。

今でこそ日本でも多くの人が傑作と評する本作だが、日本初上映は1986年と意外に遅い。やや脱線してしまうが、こんなふうに日本で公開されていない傑作が世界にまだあるかもしれないというのはなかなかロマンのある話だ。

※こう書きながら『赤ちゃん教育』でキャサリン・ヘップバーン演じる超天然の令嬢に翻弄(というかもはや蹂躙)されるグラントも捨てがたいと思う気持ちは万人に理解して頂けると思っている。

9.『情婦』(1958・アメリカ) 

情婦 [DVD]

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監督:ビリー・ワイルダー 原作:アガサ・クリスティ 出演:タイロン・パワー、マレーネ・ディートリッヒ、チャールズ・ロートン

ワイルダー作品で一番好きなのがこの『情婦』。法廷劇が持つ緊張感とワイルダー得意の軽妙さがぴったり息を合わせ、作品の懐を深くしている。チャールズ・ロートン演じる敏腕弁護士の眼を通して人間を巧みに描きながら、同時に彼さえも暴けなかった’’真実’’を通して人間の業そのものも描いた。アガサ・クリスティの優れた原作あっての作品だが、脚本と演出の力は大きいし、俳優については言うまでもない。のちに『メリー・ポピンズ』(1964)で短気な乳母役を好演したエルザ・ランチェスターは本作でもズレてるようで賢い看護婦を熱演し、アカデミー助演女優賞を獲っている。

10.『白痴』(1999・日本)

白痴 [DVD]

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監督:手塚眞 出演:浅野忠信、甲田益也子、橋本麗香、草刈正雄  他

いろいろと難点はあるが、なんとも愛さずにいられない作品。同名の坂口安吾の小説のことはしばし忘れよう。

橋本麗香(記事冒頭画像)は本作品が女優デビューなのだが、これが本当によかった。喋りは舌足らずだが謎のアイドル(その名も’’銀河’’)という役にマッチしていたし、本業がモデルだけあってカメラの前でやるべきことを正確に理解していた。しかしこの後は手塚作品に数本出演した後、女優業をぱったりやめてしまう(事務所も手塚プロダクションから他社に移籍)。そのため、キャリア初盤の作品がキョーレツすぎて映画というものが嫌になってしまったのではないかと、勝手に惜しんで嘆いている(※1)。名女優になると思っていたのだが…

また、甲田益也子は勿論のこと江波杏子、小野まゆみ、小山田サユリと他の女優陣もつくづくとニクイ。オヒョイさんこと故・藤村俊二の妻を演じた江波杏子のアダな感じ、小野まゆみのマッチョイズム、あるいは川村カオリの突き抜けたバカっぽさ・・・、1人1人の魅力が最大限に発揮される演出が用意されている。作品全体のつくりはともかくとして、手塚眞の女優美学は限りなく正しい。その点こそがこの映画を愛する理由だ。

そしていかれたディレクター・落合を演じる原田芳雄の演技も白眉。彼が恋しくなったらいつもこの映画を見る(※2)。2:14の彼の哀切さよ!


Hakuchi (1999) Ginga's song

※1と思っていたらご本人のブログで、本作の現場写真という非常にレアな記事UPが今年1月にあった。「また映画やりたいな」と書かれているので、是非とも復帰をお願いしたい。

※2他には清順の『ツィゴイネルワイゼン』(1980)など。しかしこちらは蒟蒻をねじる大谷直子見たさでの鑑賞が多い。

おわりに

ベスト10にもう10本を足したところで、当然ながら拾いきれない作品は数多ある。リストを見返してもビクトル・エリセやポランスキー、カウリスマキにチャン・イーモウ(初期限定)はどこへ行ってしまったんだ、とつくづく不思議に思う。前記事も含め、ここにある作品とない作品の違いって自分にとって何なのだろう。かと思えば今日は突然ベント・ハーメル(『卵の番人』『キッチン・ストーリー』)の名前に遭遇し、ほぼ忘れていたその名前から久しぶりにあたたかい映像を思い出した。そうだ、アトム・エゴヤンは?

好きな映画を好きなように語れたことは楽しかったが、ベスト10とそれを補完する意図で始めた記事が却って興味深い混乱をもたらした、そのことが今回の収穫。

ここに書ききれなかった作品を一つずつ追うのも今後のモチベーションになるだろう。また、ここに挙げた作品を改めて深掘りするのもいいだろう。どういうわけだか映画とがっつり向き合う季節に差し掛かったようなので、当面はとことんやっていきたい。