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いつも心にデカダンを。

【映画】極私的オールタイムベスト10

Jane Eyre-Joan Fontaine-2

(『ジェーン・エア』より)

 映画記事の更新が多くなったので、整理と自己紹介を兼ねてオールタイムベスト10をリストアップしてみた。やってみると相当なごった煮だが、改めて自分にとって映画とは何か考える機会にもなって面白い。また、この記事によって読者数が減らないことを切に願う。

リストは下記の通りで、PCの人は「続きを読む」をクリックするとリストから各作品に飛べます。

 


1.『ジェーン・エア』(1943・アメリカ)

 監督:ロバート・スティーブンソン 出演:ジョーン・フォンテイン、オーソン・ウェルズ他

生涯で初めて観た大人向けの映画で、且つ「映画とは何か(基礎編)」を知るための諸要素が揃っていた作品。むろん当時はそんなことは考えず、ジョーン・フォンテイン演じるジェーンの強さ、美しさに夢中だった。他にもオーソン・ウェルズ、子役時代のマーガレット・オブライエン、エリザベス・テイラーなどのスターたちに圧倒され、子供心にも当時のハリウッドの凄さ、システムの盤石さを感じた。

この作品の後のスティーブンソンは主にディズニー映画を手掛けており、多数の賞を獲った『メリー・ポピンズ』(1964)もこの人によるもの。本作では脚本にも関わっており、原作の見どころをスマートかつメリハリよく纏めている。そこにバーナード・ハーマンの重厚な音楽が加わり、人物たちの心象風景でもあるイギリスの荒野の寂寥感を余すところなく伝えた。ハーマンについてはのちにup予定の『映画音楽10選(仮)』でも触れたい。

ジェーン・エア [DVD]

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2.『インランド・エンパイア』(2006・アメリカ/ポーランド)

監督:デヴィッド・リンチ 出演:ローラ・ダーン他

前作『マルホランド・ドライブ』(2001)からさらに加速したリンチ・ワールド。極私的にはこちらの方が好み。『マルホ〜』同様ハリウッドの光と影を描いており、今回も一見めちゃくちゃに見えるがその実破綻はしていない。 

音楽の使い方も相変わらず秀逸で、ローラ・ダーンの怪演にBeckの『Black Tambourine』が被さるシーンは理屈抜きでアガる。この辺りから例の変顔シーン(※)をとても楽しそうに観ていると、パートナーに「kojimatは本当に変態なんだねぇ(´ω`)」と生暖かい目で見られる。しかし冗談抜きでどこか安心する(我々の居場所は現実だけではない)し、観る人によっては並ならぬカタルシスを得られる作品。 

インランド・エンパイア (字幕版)
 

※タイトルで画像検索すればすぐに出てくるけど、人によってはトラウマになるので要注意。

3.『軽蔑』(1963・フランス/イタリア) 

軽蔑 [DVD]

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監督:ジャン・リュック=ゴダール 出演:ブリジット・バルドー、ミシェル・ピコリ他

これ以前に『勝手にしやがれ』(1960)『気狂いピエロ』(1965)は観たものの、青春時代で一番影響を受けたゴダール作品はこの『軽蔑』(※)で、「映画とは何か(応用編)」を教えてくれた作品。冒頭のシーン、随所に挟まれる青い海と白い彫像のカット、繰り返されるジョルジュ・ドルリューの悲壮なフレーズ、全てが見たことのない映画の姿だった。なお、制作にはイタリアの大プロデューサーカルロ・ポンティも関わっており、その点についても納得の仕上がり。

それにしても結局のところ、ジャック・パランス演じる映画プロデューサーがフリッツ・ラング(本人として登場)の撮ったフィルムを円盤投げよろしくブーーーーーン!!!と投げるシーンが一番印象に残っているかもしれない。凡人の映画鑑賞なんてこんなもの。

(※)とはいえ、『勝手にしやがれ』を初めて観た時は大いに興奮し、友達に電話をかけ一方的に感想をまくしたてた記憶がある。

4.『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人時件』(1991・台湾)

監督:エドワード・ヤン 出演:チャン・チェン、リサ・ヤン他

早逝したエドワード・ヤンの代表作にして、自分にとって「完璧な映画」の一つ。また、映画をスクリーンで見ることの重要性を改めて教えられた作品。 思いのたけは過去記事に述べたのでそちらを参照されたい。

5.『ブエノスアイレス』(1997・香港)

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監督:ウォン・カーウァイ 出演:トニー・レオン、レスリー・チャン、チャン・チェン他

ウォン・カーウァイの現時点での最高傑作で、永遠のカップルの物語。おなじみクリストファー・ドイルの青臭い映像と、アストル・ピアソラやフランク・ザッパを中心とした選曲も非常に良い。菊池武夫が衣装担当だったのは最近初めて知った(チャン・チェンの服装を思い出し納得)。主演のトニー・レオン曰く「(フィルム)10万フィート分は撮った」という通り、幻のシーンどころか幻の登場人物もいる。その断片と撮影時のドキュメンタリーを拾い集めたものが、のちに公開された下記『ブエノスアイレス 摂氏零度』である。

ブエノスアイレス 摂氏零度 [DVD]

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見てみると、幻のシーンも人物も幻のままでよかったと感じた。男2人+1人の構成でまとめたのはやはり正解だと思う。ただし編集作業においては、膨大なフィルムも大いに役立ったに違いない。

6.『インディア・ソング』(1975・フランス) 

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監督:マルグリット・デュラス 出演:デルフィーヌ・セイリグ、マイケル・ロンズデール他

哲学者ミシェル・フーコーには作品を『極北の映画』と言わしめ、ゴダールには「四人組」(※)と 評されたマルグリット・デュラス。彼女もまた自身のやり方で映画の文法を破壊し、作家ならではの「テクストと映像の蜜月(あるいは共犯)関係」を作り上げた。主演のデルフィーヌ・セイリグの美しさは格別。

デュラスの映像作品ではこの『インディア・ソング』が最も知られているが、本国フランスでは多数発表しており、他に『アガタ』(1981)『ナタリー・グランジェ』(1972)などは前者なら日本版が、後者は輸入盤がamazon.jpでも購入できる。

※映像作品にも着手し、成功を収めたフランス人作家をデュラスとの対談でゴダールはこう呼んだ。他の3人はジャン・コクトー、サッシャ・ギトリ、あと一人を失念。

マルグリット・デュラスのアガタ [DVD]

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Nathalie Granger  [DVD] [Import]  (1973)

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7.『ノスタルジア』(1983・イタリア/ソ連) 

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これも自分にとって「完璧な映画」の一つ(※)。タルコフスキーの映画に現れる夢の中の(もう存在しない)故郷、それを垣間見るための水(鏡)、それを照らす小さな灯…、全てが大事に思える作品。極私的には開始5分で涙腺がすでに緩み、ラスト5分で完全崩壊してしまう。背中を折ってむせび泣く作品。 

※映画として完璧さを感じ、かつその映画を心底好きになるような幸福はなかなかない。この記事では、完璧な映画(それ自体主観的なものだが)の他に、そうとは言えなくとも完成度が高く、かつ個人的に思い入れのある作品を並べた。

8.『パルプ・フィクション』(1994・アメリカ) 

監督・脚本:クエンティン・タランティーノ 出演:ジョン・トラボルタ、ユマ・サーマン他

タランティーノもまた、映画を新しくしてゆく監督の一人だろう。全編を過去作品への膨大なオマージュで構成しながら、観客が観るイメージはいつも新しい。そして文句なしに格好いい!あと脚本ほんとにうまい。 

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9.『アギーレ 神の怒り』(1972・西ドイツ)

監督:ヴェルナー・ヘルツォーク 出演:クラウス・キンスキー他 

アギーレ/神の怒り Blu-ray

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監督:ヴェルナー・ヘルツォーク 出演:クラウス・キンスキー他

自然の壮大なスケールもあっさり矮小化してしまうクラウス・キンスキーの強烈な存在感。 幻想的な音楽に、どこか呪術的とさえ感じる映像。 一つの暴虐を通して放たれる神の眼差し。アギーレの娘役を演じたセシリア・リヴェーラの美しさすらどこか禍々しい、禁断(?)の傑作。ラストがとても好き。

10.『アワーミュージック』(2004・フランス/スイス)

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紛争後のサラエヴォを舞台にした「戦争について」の作品。ゴダールも本人役で出演し劇中で重要な問いを投げかける。ナード・デュー演じるオルガの悲壮な決意、思い詰めた瞳が痛ましく、会話の中でも感極まって’’L'autre monde!(あの世)(で救われるのよ!)’’とつぶやくシーンは心を抉られる。一方、サラエヴォを訪れた若きジャーナリストを演じるサラ・アドラーも瑞々しい。ラストの清々しさにはただただ胸が痛い。

しかしゴダール作品の「青」はどうしてこんなに美しいかな。前述の『軽蔑』しかり、『ソシアリスム』(2009)の冒頭の海しかり、どこか浮世離れしているーまるで’’L'autre monde’’ではないか。  

アワーミュージック [DVD]

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おわりに

きっかけは『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人時件』で大好きになったエドワード・ヤンのベスト10を知り、そこに自分も好きな『アギーレ 神の怒り』があったことがなんとなく嬉しかった、というまさに極私的なことだった。それからもっといろんな人のベスト10が知りたくなり、これを機に自分のリストも作ってみようという気持ちになった。

映画好きを自負するだけの数は観ているつもりだし、それだけに10作品だけに絞るのはとても難しいそしていざやってみると邦画が一切ないし、大好きなはずのあの監督もこの監督も入っていない。ここに挙げたのは自分の血肉になった作品というよりも、自分の根幹をなす骨組みと言える作品なのだろう。というわけでかどうだか何となく物足りないので、『オールタイムベスト10+10(仮)』という記事を作ってもう少し作品を取り上げ、また映画を観るうえでは欠かせない映画音楽についても個別に記事を書こうと思う。