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いつも心にデカダンを。

【映画】『カティンの森』(’07・ポーランド)

(企画・戦争をめぐる映画/旅 第一部 アウシュヴィッツ、カティンの森、そしてヒロシマ― ⑤)

 

カティンの森 [DVD]

カティンの森 [DVD]

 

監督:アンジェイ・ワイダ 原作:アンジェイ・ムラルチク 脚本:アンジェイ・ワイダ他 撮影:パヴェウ・エデルマン 音楽:クシシュトフ・ペンデレツキ 主演:マヤ・オフタシェフスカ、アルトゥル・ジミイェフスキ 他

<Summery>

1939年、ポーランド。ドイツ・ソ連両国に侵攻される混乱のなか、アンナは娘ニカを連れて夫アンジェイを探していた。ソ連軍の捕虜となった彼はアンナに娘を託し、捕虜生活の日々を手帳に記すことを決める。終戦後、アンナに渡された手帳が彼女に伝えたものは…。

<Detail>

『地下水道』『灰とダイアモンド』から約50年、『コルチャック先生』から17年。歴史に翻弄される祖国を撮り続けてきたアンジェイ・ワイダが、政情により長らく語られなかった悲劇を題材にした作品。

タイトルの「カティンの森」とは、第二次世界大戦でソ連軍が捕虜のポーランド将校約2万人を殺害、森に埋めて隠匿した事件のこと。ドイツ軍が発見し喧伝したものの、ソ連はもちろんアメリカ・イギリスもこの事実を無視・黙殺し、終戦後のポーランドではソ連の傀儡政府により封印されてしまった本当に悲しい事件である。この事件をめぐり、夫を待ちつづけた妻、兄を亡くした妹、父を亡くした息子、同僚を亡くした元将校…、それぞれの「戦後」と彼らの選択を描きながら、戦争が終わってもなお平和とは程遠い祖国の悲しみを映し出してゆく。

予備知識を持たずに観ても充分に衝撃的だけれど、大戦前後のポーランド(独ソに挟まれた国の位置・占領下の状況・戦後の政治)について少し調べておくと、さまざまな立場に生きる人々の悲しみがさらに伝わってくるだろう。政治の圧力により真実を語れないポーランド国民にとって、表面上の戦争は終わっても、一人一人の「戦争」は終わらず、それぞれが闘争を続けたのだ。たとえその力があまりに脆く、簡単に国家や歴史に押しつぶされてしまうとしても…。

これはワイダが彼の作品において一貫して描き続けた「市民」の姿であり、そのまなざしは変わらず透徹している。

また、多様な登場人物を登場させ、あらゆる角度からストーリーをすすめる手法は『地下水道』『灰とダイヤモンド』から変わっていないが、当時のひりつくような緊張感は薄まり、おのおのに秘められた深い感情が静かに立ちのぼる作品になっている。

このときワイダは80歳。その後もポーランド民主化の英雄であるレフ・ヴァヴェンサを題材に『ワレサ 連帯の男』を撮っている(2013)。ふたたび激動が予感される現代、まだまだ彼に現役であってほしいというのは酷な願いだろうか。